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植物と夢の話 01目覚め

暗闇の中で誰かが手を伸ばしている。草野はその手をつかまなくてはならない衝動に駆られたがその手は闇の中へ消えていった。

目が覚めると草野は草むらの中で仰向けになっていた。寝起きの悪い草野にとっては三ヶ月に一度あるかないかくらい快適な目覚めだった。あたりを見渡すと前方には見渡す限りの草原が広がっていた。「ここはいったい…」こんなところで眠った記憶はないし、なぜ外で寝ていたのかもわからない。夢遊病にでもかかったのだろうか。いや、夢遊病でたどり着ける距離にこんな場所はない。あっけにとられていると後ろで人の気配がした。「あれだけ痛めつけてやったのに、なんど逃げ出せば気が済むのだ」怒気のこもった声に反射的に身を伏せる。

声の主が探しているのは自分ではない。そうと分かっていてもとばっちりを食らうのはごめんだ。寝たふりをしようかと思ったが、寝転がっていてはいざというとき動きにくい。まず今置かれている状況を知るには相手を確認しよう。そう思って振り返ると後ろには眉間にしわを寄せた背の高い男が立っていた。男の背後には集落とおぼしき家々があり、背の高い男と集落の間にもう一人の男がいる。「おい、ここにもいるぞ」背の高い男が叫ぶと、小柄な男が駆けつけてくる「なんだ新しいのか、あれの替わりになるかなぁ」

草野は相手が自分のことを話していると気づいて頭にきた。「人のことを物のように言って!お前ら何さまだ!」言ってすぐにこの関係を荒らげるようなせりふを後悔した。しかしその心配は無用だった。背の高い男はとくに怒るでもなく淡々とした口調で言った。「奴隷として現れておいて何を言っているんだ」「俺は物でも奴隷でもない」「それならお前は何だ?」「お前らと同じ人間だ!」「何だ。何を言うかとおもえば、みずから奴隷宣言か」小柄な男が苦笑いをしている。「何がおかしい!」「俺たちは植物だ。人間じゃない。奴隷というのはおまえたち人間のことだ」 

「こいつも面倒を起こす種類かもしれない。早いとこ眠らせておくか」小柄な男が言った。この二人から離れなくてはならない。こいつらは何かを持っている。そんな危険を感じた草野は考えるより先にだだっぴろい草原に向かって飛び出していた。「どうせ逃げられないのに無駄なことをするんだな」背の高い男が言ったが、走り出した草野には聞こえない。

草野は走りながら考えていた。このまま走り続けてどうなる?草原の中に隠れる場所はないだろう。走る方向を間違えた。もっと隠れる場所の多いところに逃げ込むべきだった。走る草野にはある記憶が語りかけようとしていた。以前にもこんなことがあった。あのときは―― 思い出そうとすると頭痛がして足に電撃のような痺れが走った。草野は思いっきり転んだ。起き上がるとすぐ後ろに背の高い男がすずしそうに立っている。草野は焦った相手はまるで疲れていない様子なのだ。「まてよ、俺がいないとダメだろ」少し遅れて小柄な男が追いかけてくる。

「何で俺が…」草野は方向を90度変えて走り出す。なぜか足はさっきより軽くなっている。軽く地面を蹴るだけなのにさっきより速く走っているような気がする。そして何より走るという行為に対して疲れを感じない。なぜか懐かしさを感じる。「なんだこれ……」これなら逃げ切れるかもしれない。

どのくらい走っただろうか、草野が振り返るとの背の高い男は、はるか遠くにいた。相手が追いかけるのをあきらめたと思った草野は集落に向かって走り出した。心地よい空気の抵抗を感じながら後ろを振り返ると、背の高い男はさらに小さくなっていた。

「自分からつかまりにいくなんてまぬけな人間だな」「追いつけなかったやつがなにいってんだか」「俺は無駄な労力は使わない主義でね。集落に入れば誰かに捕まるのはわかりきったことだ」「だけどあいつも面倒な種類だった」「関係ないさ。何であいつらが俺たちの奴隷なのか考えてみろよ」

草野は走りながら状況を整理しようとしていた。あの二人は自分たちのことを植物と言っていた。人間は奴隷だとも言っていた。集落に逃げ込んでもまた同じようなやつらにつかまるんじゃないか。思わず足を止める。さっきまでのどかに見えた集落が危険地帯に変わった。しかし、こうしてとまっているわけにもいかない。まだあの二人が後ろに見える。「落ち着け何か手があるはずだ。とにかく隠れ場所をさがすには草原じゃだめだ」草野は焦る自分に言い聞かせて走り始めた。

走るうちに集落の反対側までいけば何かあるのではないかという思いがつよくなってくる。いっそのことその向こうに見える山まで走ろうかとも思ったが、さっきのやつらは悪党で集落には親切な人達もいるのではないかというあわい希望もあった。

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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